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「事故に遭ったって本当だったんだな」
「そんな嘘吐いてどうするんだよ」
「確かに」

そう言って私たちは笑い合った
今までの不安がすっと心から消えていく感覚が心地良かった

「なぁ、俺って…」
「なんだ?」
「俺ってなんだろうな」
「は?」

私は武田の言ってることがわからなかった
ただ、人はこうして壊れることを知った


     こどく


その知らせが私のところに来たのは一週間前だった

『武田が事故に遭ったんだってよ』
『事故?』
『そう、交通事故。交差点で軽トラが突っ込んできたってさ』

私はこれを冗談だと思っていた
なんせあの佐藤と武田のことだ、きっと呼び出した私を騙す気だろう
小・中学の時はずっと一緒に遊んでいた二人だ
彼らはいつも輪の中心にいて、私は彼らの行き過ぎた行為を抑制する役だった
連絡こそ断っていなかったが、顔を合わせることなど滅多になかった
私は久々に友人と会えることに期待していた

『それは大変だな、見舞いにでも行けばいいのか?』
『そうそう、それを忘れてた。今週空いてるか?』
『いや、残念だが仕事で埋まってるな』
『そうか、じゃあ来週はどうだ?』
『ちょうど来週の木曜が空いているな』
『お、俺もちょうど空いてる』
『決まりだな』
『じゃあ集合は○○病院の前な、11時』
『お前たちがよくお世話になっていた病院じゃないか』
『おいおい、お前もだろ』

私たちは笑いながら電話を切った
しかし佐藤のやつ、ここまで手の込んだ冗談をしなくてもいいだろうに
そう思いながら約束の日を待ち遠しく感じていた

久々に会った佐藤は以前より遥かに大人に見えた
数年ぶりに会うのだから当然と言えば当然なのだが
変わってしまったことに少しの寂しさを覚えながらも私たちは昔の話に夢中になっていた

「なぁ、武田はどうしたんだ?」
「あぁそうだな、あいつとも久々に顔合わせるんだな」

そう言うと佐藤は病院の入口の方へ歩いて行った

「おい佐藤、どこまで演技なんだ?」
「演技?何言ってんだ?」
「まさか演技じゃないのか?」
「いや、何を言ってるかわからないぞ」
「そうか…」

私はさっきまでの浮ついた自分を叱りながらこれから会う武田に心の中で頭を下げた
そして私の心は忙しく、怪我をした武田の心配をしていた

病室の扉を開けると私は一瞬、昔に戻ったような気がした
そこには武田がいた。過去の面影がしっかり残っているから一目でわかった

「よう、久し振り」

まるで怪我をしていないかのような軽さで声をかけてきた

「久し振りだな、お前は変わってないな」
「酷いな、そういうお前は随分と変わったじゃないか…佐藤?」
「おっ、正解だ。じゃあこいつは誰かわかるか?」
「ん?どこかで見たような顔だな」
「おいおい、酷いのは誰だよ」
「嘘だ、お前は嘉納だろ?」
「正解」

忘れてたらどうしてやろうかと思っていたところだ

「元気そうでなによりだよ。武田」
「それがさっきまで嘘だと思ってたやつのセリフか?」
「なにぃ!人が怪我で苦しんでるというのにお前と言う奴は!」
「はっはっは、お前たちのことだからな、これくらいはしなきゃ逆につまらないと思っただけさ」
「まぁ、そうかもしれないな」
「ったく、薄情なやつだ」

その後も私たちは笑い合った
高校であったこと、大学に行ったこと、就職したこと
それは楽しくもあり、戻れないことを認識させる時間だった

「っと、悪い…。これから仕事入っててな」
「おう、また会おうぜ」
「そうだな」
「ほんとに悪いな。じゃ、また今度!」

佐藤が席を外した
そうか、私だけじゃなく佐藤も、武田も仕事があるのか

「しかし、事故に遭ったって本当だったんだな」
「そんな嘘吐いてどうするんだよ」
「確かに」

そう言って私たちは笑い合った
今までの不安がすっと心から消えていく感覚が心地良かった

「なぁ、俺って…」
「なんだ?」
「俺ってなんだろうな」
「は?」

私は武田の言ってることが理解できなかった
なんだろうな?そんなこと聞かれたって答えようがない

「俺な、高校出た後大学行ったって言ったろ?」
「あぁ、聞いて驚いたよ」
「酷いな…まぁ、それは置いておこう。その時に俺、バイトしてたんだよ」
「へぇ、バイトと学業の両立は辛くなかったのか?」
「そりゃあ辛かったさ。でもな、欲しいものがあったんだよ」
「欲しいもの?」
「カメラさ」
「カメラ?」

聞き返すのも無理はない。さっき聞いた武田の職業は有名な銀行の一社員なのだから
そして、あのいつも騒がしい武田からでは絶対に聞けないような、地味(と言っては失礼だろうが)な趣味だった

「いつの頃からかな、親父に連れられて写真展に行ったんだ」
「俺は当然、嫌がったさ。だって写真なんて見ても面白くないしな」
「まぁ、親父となかなか話してなかった気がしてよ。ついて行くことにしたのさ」
「でも、やっぱりつまらなかったんだ」
「親父もそんな感じで、結局帰り道に遠回りしてドライブしたんだ」
「街を夕陽が照らしていた」
「綺麗な景色だった、言葉では表せないくらいに」
「その時親父が言ったんだ」
「悔しいよな。って」
「言葉にできないのが悔しい」
「俺はそう思った」
「だからこう言った」
「それなら親父が言葉にできるまでこの景色を残しておいてやるよ。ってな」
「そうしたら、親父は笑ったんだ」
「その時はたまたま車に積んであった使い捨てカメラさ」
「でも、現像された写真を見てこう思ったんだ」
「もっと写真を撮りたいってさ」
「でも、それからもいくつかの写真を撮ったけど何かが足りなかった」
「そう、あの写真にはあったものが欠けてたんだ」
「だから俺はもっと高性能のカメラを使おうと思った」
「そんな理由でバイトをしようと思ったんだ」

私は武田の話を黙って聞いていた。中学以来の友人の言っていることを理解しようとしていた
だが、わからない。彼が何を言いたいのか、何故溺れているような顔をしているのか

「そして?」

だから私は先を促した。話を聞き、少しでも理解し、溺れている彼の助け舟になってやろうと思って

「俺は二眼レフカメラを買ったんだ、高かった…」
「だけどまぁ、それはどうでもいい。俺はどんどん写真というものに取りつかれていった」
「一応大学に行ったことで、就職先はたくさんあった」
「生きていくために働いて、カメラという趣味に生きる。これ以上の幸せはないと思った」
「だが気付いたんだ。俺はこれでいいのか?ってな」
「写真を撮りに山へ登り、写真を撮りに川を渡る」
「はいはい、幸せさ。だけど知ってしまったんだ」
「あの写真に並ぶものは一つもないってな」
「そう思った途端、どの写真もまともに見れなくなった」
「それからも山へは登り、川を渡った」
「でもな、つまらない写真を撮った後、レンズ越しじゃない景色を見たんだ」
「綺麗だった…、あの街並みを照らした写真のように」
「同時に気付いた。この景色を撮っているのに何故俺の写真は違うんだ?」
「それからというもの、景色を見るのが怖くなった」
「景色を見ると思い出すんだ。親父と見た景色を、お前たちと過ごした楽しい日々を」
「でも、無理なのは知っている。戻れるわけなどない」
「だから俺の胸にはぽっかり穴が空く」
「過去に戻れたのなら、この穴なんてすぐ埋まっただろう。だけど違うだろ?」
「俺は必死に逃げた。写真も、カメラも押入れに捨てて」
「その虚無感は日々の喧噪にいると自然に埋まっていった」
「でも、ある時思うんだ」
「俺ってなんなんだ?」
「そう思う度にまた胸に穴が空く」
「…俺は自分がわからない」
「なぁ、教えてくれよ。嘉納」

私は何も言わず聞いていた
彼、武田は溺れて『いた』
私は助け舟どころか藁にすらなれなかったようだ

「…わからない」
「そうか…」
「でも、」
「…なんだ?」
「武田、そこまで自分を理解できている人はそんなにいないだろう」
「だから、逃げないでくれ。お前はもっと強い人間だ」
「…あぁ、わかった」

その後、軽い会話をして私は帰った
武田がどうしているかは知らない
私が何も理解できなかったことに落胆し、彼の言ったように虚無感に襲われているのか
それとも、理解できなかった私の『嘘』の言葉に励まされて、またカメラを手にしているのか
何も、知ることはない

 

end

 

あとがき
はいお久し振りです。研修生ですよ
暗い?まぁ、風邪引いてるので色々と暗く見えるんですw
あえて明るくいきます。話の内容が内容なのでw
まぁ、軽く捉えていただいて結構です
ただ言いたいのは

一人の人間は大衆という生物に取り込まれ、自己を見失う
孤独な一の集合、大衆という生物はすべてを忘れさせる
痛みを忘れさせ、涙を拭い、代償として意志を食べていく

常識というものは川である
自分が大地にしがみつく岩ではないと認識した石(人間)のみが流されない川である
気付かず流された石は削られ、丸くなる
そして最後に砂になる

ボールとは、蹴られて動くのではなく、自らゴールへ進むのである
蹴られたボールはそこで死に、65億もの剣に串刺しにされ──
そして空気は抜けるのだ

と、まぁ3つ偉そうなこと言いましたね
要するに武田は死にました
カメラという自分を見つけたにも関わらず捨てました
誰もが直面する過去に縛られ、大衆に食われました
嘉納は死にませんでした
最初から死んだことになど気付いていないのだから、ある意味不死身
これからも気づくことはないでしょう。砂になる
佐藤は死にません
大衆を目にしても決して食われず、生きていける人です
孤独を見据え、常識に飲まれず、かといって突き放さない。彼こそ岩になり、大地に根を下ろす

さて、この話。とってもブルーですね
はっきり言って久々の更新にこれを選ぶのは気が引けるほどですw
だけどまぁ、このまま放置しててもいずれ恥ずかしくなって消しちゃうと思うので
まだ迷いのない今のうちに更新しておきますw

次の更新こそリトルバスターズ!で!!
そういえばエクスタシー発売日決定しましたね

では、この辺で。また今度~

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 プロフィールを詐称する癖があります。
 二次創作がメインで、現在一次創作は停止気味です。
 暇なとき、「のんびりしていこう」という場所がここであればとても嬉しいです。

最近の衝撃:
 寝言「魔貫光殺砲」
 …そうですか、緑の人ですか。

注意:
 ルールとかとやかく言うのは嫌ですが、一応と。
 他の作家の皆様も何人か迷惑しているそうなのでこちらも。
 まぁ、最低限の常識は守ってください。ということです。

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