久しく晴れた冬の昼。来ヶ谷は監視カメラの映像を見て哂った。
(いや、実に面白いな理樹くんは…、自分の仕草が相手にどう影響を与えるのか理解していない辺りが特に好ましいよ)
少々、いや実にイヤラシイ笑みを湛えた彼女は無線から助言(笑)を下す。
「学校の制服を着て本名を教えたら、探られたりでもしたらお終いなんだが…そこのところを訊いてもいいかな?」
『…アッー!』
「はっはっは。いや、がんばりたまえ」
満足そうに笑い、救済を求められる前に無線を切る。
ちなみに、監視カメラの映像の右上には「○REC」とついている。
そこらへんなお約束で下手を打つ来ヶ谷ではない。
「いやしかし、理樹くんはトラブル体質だったか…?」
…多少危険な発言もご愛敬。
やはりお約束は絶対に逃さない、来ヶ谷であった。
漫画やドラマでは有り触れた、あまりにもベタな出来事だったが、あの日俺は一目惚れをした。
「あぁ、もう! ドコにあるんだよっ!?」
街中を巡る陽気な音楽がやけに響いたのを覚えている。それほどまでに俺は切迫していたのだ。
誰かにネコババされてはいないか。折角溜めたカードのポイントを使われはしないか。
財布を落として、泣き言をブツブツ言いながら半ば涙目で地面に這いつくばっていた俺に、あの子は手を差し伸べてくれた。
「お、落し物ですか?」
どこか保護欲を刺激させられるあどけなさを感じる顔立ち。どこの馬の骨とも知らない男に話しかけるのが緊張するのか、ほんのりと朱に染まった頬。心を見透かすような綺麗な瞳。
振り向いた一瞬で心を奪われた。学生たる自分にとって命と等価とさえ言える、お年玉の全てが入っている財布の存在を一瞬とは言え忘れた程なのだから、と言えばどれほどの衝撃だったか伝わるだろうか?
…伝わんないか。
「………」
「あの、どうかしたんですか?」
「あ、いや、何でもないですよ!?」
反応を示さない俺を不審に思ったのか、可愛く小首を傾げる少女。この時点でもう俺の正気は溶けていたに違いない。
…だから、正気を失ってしまっていたが故に再び会いに行こうと思ってしまった俺を、一体だれが責められようか。
その可憐な少女の名前は、直枝理樹と言った。